いつもより輝く笑顔

8.海遊館に行く
ライター 岡田 夏憂  
 一時間ほど観光バスに揺られ、着いた所は大阪の海遊館です。
 私が勤める施設では毎年この季節、日帰りのバス旅行を行います。二カ月ほど前からどこへ行きたいですかと希望を募り始めます。今までもいろいろな所へ出掛けました。大阪の新世界、長島温泉、京都、トロッコ列車にも乗りました。
 昔は、職員も一緒にお風呂に入り、お年寄りの背中を流したといいます。とても素敵なコミュニケーションです。この話を聞くたび、ほのぼのと、職員と入所者の関係が家族的であったことがわかります。
 今回の行き先である海遊館は、職員が決めました。なぜなら、入所者のニーズが多様化しているため、行き先を一つに絞り込むことに時間がかかりすぎるのです。また、今までの小旅行で海に行った事がないからという単純な理由もあります。
 当日の行程や食事まで旅行会社の方と話し合って決めていく作業は、とても楽しいものです。いろいろなことをシュミレートしながら決定していくのですが、最後まではっきりしないことがあります。それは参加人数です。
 入所者はどんどん高齢化しているので、度々体調の変化をきたすのです。明日がバス旅行だと意識すると興奮しすぎて体調が悪くなる方もいらっしゃるほどなのです。
 「もう最後かもしれんね」などと九十七歳のおばあちゃんに言われるとついほろっときて、どんなことがあっても連れて行ってあげるからと抱きしめたくなったりします。
 バス旅行当日は、突き抜けるような快晴で車窓から差し込む日差しが眩しいほどでした。今回の参加人数は、しっかり一日歩ける方ということで二十人(およそ全体の半数)ということになりました。バスの中も座席に余裕があり、皆さん自由にくつろいでおられました。
 お友達同士隣り合わせて座り、ずっと手をつないでいるおばあちゃんたち。出発した矢先からずっと写真を撮っているおじいちゃん。どの方も普段見せないような笑顔で天保山に到着しました。
 おばあちゃんたちのバス旅行での楽しみの一つは、お土産を選ぶことにあります。サンタマリア号という船に乗る前の少しの時間を見つけて、お土産物屋さん(海遊館のグッズショップ)でお買い物です。「もう時間がないです」という職員の声に耳も貸さず、一心不乱に選んでいる方もいらっしゃいました。
 船では青森から来た修学旅行の高校生と一緒になりました。久しぶりに潮風に吹かれてみなさん大満足だったようです。ホテルでの昼食は皆さん緊張して、誰一人おしゃべりをしようとしません。「ムードに酔ってしまうわ」とうれしそうにおっしゃる方もいました。
 そして、メーンイベントの海遊館では、それぞれの方の性格が魚をみて歩くスピードに現れていました。ゆっくり一つ一つみていく方、走るように進んでいく方、けれどジンベイザメの大きさには皆感心されていました。
 帰りのバスでは、ぐったり疲れて眠る方がほとんどでした。施設に帰り感想を尋ねると、あるおじいちゃんは、船で見た高校生の太ももが刺激的だったとか、帰りに食べたソフトクリームがおいしかったとか、意外な答えが返ってきて大笑いをしました。
 九十七歳のおばあちゃんは当日の朝、血圧が高すぎて不参加となっていました。おみやげのイルカのぬいぐるみを見ながら「来年は絶対行くから」と力強くおっしゃいました。おばあちゃんたちが生きる励みになるようなイベントをまた考えますね。来年もお楽しみにねとスナップ写真を掲示しながら、バス旅行の一日を振り返りました。