| 楽しみが元気を保つ 7.趣味を持つこと |
| ライター 岡田 夏憂 |
| 「おはようございます。起床時間になりました」という放送が入ってから、施設入所者の生活は基則正しく流れます。茶粥(がゆ)の朝食、ラジオ体操、牛乳の時間、そして昼食。それから、体操、レクリエーション、夕食、入浴そして、消灯。ざっと書けばこのような一日です。 これらの基本的な時間のあい間にそれぞれの方が趣味のクラブ活動を行っておられます。華道、書道、折り紙、カラオケ、民謡、日本舞踊。折り紙教室は職員が指導していますが、それ以外は全てボランティアの先生が指導にあたって下さいます。入所者の皆さんはとても熱心なので先生の指導にも熱が入ります。 特に日本舞踊は十一月のはじめに発表会が予定されているので、皆、真剣そのものです。六曲も踊ることになっているのです。ですから、いつもの九十分の教室時間が過ぎても、ずっと音楽はやみません。先生の指導も、踊り手の動きも、まだまだといった感じです。補助で教室に参加している職員の私たちがフラフラになるほどの白熱ぶりです。 また、民謡教室も人気があります。先生の三味線に合わせて太鼓をたたく人、うたう人、それぞれが自分の担当に責任を持って、精一杯力を出しきっています。「先生にほめられたのよ」と言ってはよろこび、「あの音が出ないの」とくやしがる姿はまるで、お稽古事をはじめたばかりの少女のようです。 彼女たちをじっと見つめていて気づいたことがあります。それは、趣味に没頭している入所者は、ほとんどカゼをひきません。とてもお元気です。もちろん、それぞれは持病がおありです。それに毎年、インフルエンザの予防接種を受けるし、栄養の摂取状態も住環境も良好だといえるでしょう。けれど同じ状態でも一シーズンに何度もカゼだといって寝込む方がいらっしゃいます。 こういう方と全くカゼをひかない方との間にはどんな違いがあるのだろうかと考えた時、「その人に夢中になることがあるのか」ということが大きなポイントであることに気がついたのです。医学的な根拠なんてありません。ただ、彼女たちと十年間生活を共にして感じたのです。 たとえば、ある方は、私がこの施設に勤務したころからずっと肺がんをお持ちです。けれど少しも進行していません。確かに高齢になるとガンの進行は遅いといいます。けれど彼女には病気に負けない気力や生きていることそのものを楽しもうとする意欲があります。 「病気と寿命は違うから」といつも彼女は言います。毎日、庭の花に水をやったり、カラオケを歌ったり、日本舞踊にとり組んだりしている姿は元気そのもので輝いています。 逆に私たちがしょんぼりしていると「若いのに元気出さなアカンよ。どんな日もある」と口ぐせのように言って下さいます。全くその通りです。きっと彼女はこう自分に言いきかせて生きてこられたのだと思います。 四十の手習いと世間では言うようですが、施設では、七十、八十の手習いはあたりまえです。九十の手習いだってあるのです。 もちろん、先生はご自分達よりも年少の方ばかり。教える方も習う方もお互いに対して尊敬の念を持って接しているから教室が明るく盛況なのでしょう。同じ趣味を通して出会った人同志の絆は強く、切差琢磨(せっさたくま)している姿には感動すら覚えます。「生きがい」というものが、いかにその人の人生を支えているのかをかいまみることが出来ます。 日本舞踊の自主練習は今夜もそれぞれの部屋で秘かに行われていることでしょう。どこからか音楽が聞こえてきます。発表会まであと二週間です。どうか皆が精一杯、力を出しきれますように。 |