| 人との関係も温かく 6.物を大切にする心 |
| ライター 岡田 夏憂 |
| 「かわいいワンピースですね」「こんなん昔物(むかしもの)やから」こういった会話が、衣替えの季節になると幾度となく繰り返されます。 施設に入所されているおばあちゃんたちはとてもオシャレなので、驚くほどたくさんの洋服を持っておられます。だから季節の変わり目には、倉庫の中から衣装ケースを取り出して欲しいと訴えるため、我先にと私たちのところへやって来られます。私たちはたいてい、彼女たちの入所決定時に、必要最低限の荷物だけを持ってきていただくよう申し上げます。 けれど、そうはいかないのが女性です。お気に入りの一着が年を重ねただけ増えている訳ですから、簡単に捨てられるはずがありません。これも大切、あれも着心地良いからと、どんどん着もしない衣類が山のように増え、タンスの肥やしと化していくわけです。 これは何も洋服に限ったことではありません。きれいなお菓子の空き箱やキャンディーの入っていた缶など、いつかは使うからと大切に残しておくものですから、部屋の収納スペースは、みるみる狭くなってしまいます。だから、そういう方が入院される時はもう大変です。 部屋はガラクタと化した使わない物があふれ返り、足の踏み場もありません。けれど、年に一度の部屋換え時だけは、このようにたくさんの荷物を抱えている方は、反省されている様子です。「引越しの荷造りで昨日は寝てないの」と涙ながらにおっしゃいます。「全部捨てられないものばかりだから」と。 このような方がいらっしゃるかと思えば、部屋の中はスッキリ、タンスの中もきれいさっぱり必要なものだけを収納しているという入所者もいらっしゃいます。いつも、さっぱりした部屋ですねと声を掛けると、「あたりまえ、あの世には何も持っていかれへん」との声が返ってきました。あまりにも、もっともな答えなので返す言葉もありません。 ところで、入所者の中には、軽度の痴呆を持った方もいらっしゃいます。紙の貴重な時代を過ごされたからでしょうか、お手洗いだけではなく、あちこちでトイレットペーパーやティッシュペーパーを見つけては、誰も見ていない間に一枚二枚とはいしゃくされます。 トイレットペーパーなどは、器用にもロール状にして、袖口に忍ばせていたりします。それらの紙の類は、彼女の洋服を洗濯した時、私たちにとっての悲劇を引き起こします。洗濯機で粉々になった紙が、雪のように衣類に付着してしまうからです。 また、消灯の見回りの時、紙パンツを汚してしまったことに気づき、一生懸命洗面台で、水分を含み三倍ほどの大きさに膨張したそれを洗っておられる方を見かけることがあります。翌朝、部屋の片隅にちょこんと干された、ふくらんだ紙パンツを見たとき、涙が出そうになります。 彼女は、紙パンツとはなんぞやということを知らずに扱っているのでしょう。まさか、使い捨てのパンツだなんて思ってもみないでしょう。いずれにせよ、彼女たちからは物を大切にするということを教えられている気がします。 物を大切にするということは、そのまま人を大切にするということにつながっているのだと思います。一つのものを大切に扱い、繰り返し使うことが当たり前だった時代には、人と人との関係がもっとゆっくり、あたたかなものだったように思います。彼女たちの穏やかな生活から、そう感じずにはいられません。 |