| はずれても深まる絆 23.宝くじを買う |
| ライター 岡田 夏憂 |
| 「上手な介護の十二カ条」と書かれた古い紙が、介護職員の詰め所に張ったままになっています。き真面目な性格な主任が何年か前のお正月に張ったものです。 「知は力なり、よく知ろう」、「割り切り上手は、介護上手」、「演技を楽しもう」、「過去にこだわらないで現実を認めよう」、「気負いは負け」、「囲うより開けるが勝ち」、「仲間を見つけて、心軽く」、「ほっと一息気は軽く」、「借りる手は多いほど楽」、「ペースは合わせるもの」、「相手の立場でものを考えよう」、「自分の健康管理にも気をつけよう」などと書かれています。 この十二カ条にあるように介護の仕事にはチームワークは欠かせません。職員全員が同じ目的に向かって進まなければ私たちの仕事は成り立たないといえるでしょう。 日中、居眠りばかりして、夜、眠ることが出来ず、毎夜ろうかを歩きまわるおばあちゃんへの対応を考えたり、尿失禁をくり返す人、食事に手をつけようとしない人に対しての処遇。次から次へと起きる問題の解決など、月一回の介護職員会議で話し合うには時間が足りないほどです。 施設入所者自体の高齢化が進み、体の機能低下、もの忘れや痴呆症が少しずつ出てきている方の数も年々増えてきているというのが現状です。このような状態ですから、私たち職員はあまり取ることの出来ない休憩時間でさえ、入所者について話すこととなります。 私たちの仕事には、当直があるため、休日も出勤日もばらばらです。職員全員がそろう日など、ほとんどありません。ですから、会議で決まった事、入所者への対応の変化、病気の人への処置の仕方など、どんな小さな事でも申し送りノートに書き記し、職員全員に伝わるようにします。そのためにも、毎朝、申し送りの時間をきっちり取り、当直者は夜の出来事を報告するのです。 そんなある朝、申し送りの最後に、こんな話が出ました。みんなで宝くじを買いませんか?」と。思えば、毎日二名の当直者を必要とする私たちの職場では、全員で何かをするということが仕事以外では考えられなかったのです。その日、申し送りのノートには、「宝くじを買うことになりました。参加者はこちらにサインを」と小さく書き足されました。 それから三日後、八名全員のサインが書き込まれ、宝くじを買うこととなりました。買うと決まれば、どこの売り場が良く当たるとか、誰が買いに行くのかと休憩時間は、笑顔いっぱい、その話で皆が盛り上がるようになりました。仕事のことでカリカリしていた職場の雰囲気が急に、賑やかになっていきました。 宝くじの当選発表翌日の夕方、こっそり八名全員が施設の当直室に集まり、当選番号を確かめることとなりました。何度も何度も確認しましたが、結果は、がっくり肩を落とすものでした。皆の落胆ぶりは、ひどいものでした。その姿を見て主任がこんなことを言いました。「ほら、介護の十二カ条に、過去にこだわらないで現実を認めようって書いてある。元気出して」と。 宝くじは、はずれてしまいましたが、職員の絆(きずな)が少し強くなったのは確かなことです。私たちの心に余裕が無ければ良い介護は出来ません。これからも、この十二カ条を心のどこかに置いて、仕事にはげもうと思います。 この後、何人も宝くじ片手の入所者が私たちの所へやって来ました。もちろん番号確認です。うらやましいことに、二名の方が、三千円の当たり券を持っていました。きっと入所者の方が私たちより行いが良かったのでしょう。 |