人々の人生物語る絵

2.おじいちゃんのタトゥー
ライター 岡田 夏憂  
 街に出ると、ファッションなのでしょうか、腕や足にきれいなタトゥーを施した若者を見かけるようになりました。ノースリーブのシャツからこぼれ落ちるように描かれた模様をホレボレ見つめてしまうことがあります。と同時に、こんなにも繊細な絵を描くためには、どれくらいの時間がかかるのだろうか、痛くはないのだろうかという思いが湧いて来ます。当然、弱虫の私には出来ることではありません。
 施設に入所されているお年寄りの中にはいらっしゃいませんが、ショートステイというシステムで施設を利用されている方の中には時々、入れ墨をされた方がいらっしゃいます。昔は"ハンニャ"だったかもしれない鬼の絵や"上り龍"だったかもしれない両腕の蛇?などさまざまな絵を入浴助の時に見せていただくことになります。当然、私の好奇心は相手に失礼のないようにという配慮のもと「タトゥー」への質問攻めになってしまいます。
 あるおじいちゃんは戦争でルソン島へ行き、そこで入れ墨を彫ってもらったのだとおっしゃいました。両腕や手の甲に美しい幾可学模様が描かれていて、その模様の意味を一つ一つ説明して下さいました。また、その島で自分が人をあやめてしまったこと、果実がとても甘くおいしかったことなどをポツリポツリ話して下さいました。彼にとっては、入れ墨も戦争のつらい思い出の一つなのでしょう。
 また別のおじいちゃんは、悲しい顔をして、これ入れ墨は七歳の時に彫られたんだとおっしゃいました。痛くて熱が出て大変だったそうです。彼のまわりの大人は皆、入れ墨を入れていたらしく、何の疑問もなく彫ってもらったとおっしゃいました。けれど、このために温泉には入れないし、イヤな思い出しか浮かんで来ないと何度も何度も繰り返されました。そう言われてみれば、彼の両腕の絵は、どちらも泣いた顔の歌舞伎役者のように見えました。
 おじいちゃんたちのタトゥーは、その人の人生を語っているように思います。体に絵を彫ってもらったころは、精神的にも肉体的にも活力に満ちあふれ、人生の一番すばらしい時間を謳歌させていたにちがいありません。若々しく張りのある肌に彫られた絵はどれほど美しかったことでしょう。けれど今となってはその絵も肌のたるみと共に美しさを失い、ただの消そうにも消せない青春の思い出となってしまっているようです。あるおじいちゃんはおっしゃいました。こういうことを若気の至りと言うのだと。
 この仕事をしているとお年寄りから多くの教訓を得ることになります。おじいちゃんのタトゥーもその一つです。若さゆえの勢いでつっ走ったことは、いずれ後悔する日が来ます。だから何をするにもよく考えてということでしょうか。でも、若さとは「イキオイ」であり、将来のことを考えてタトゥーをいれる人などいないのでしょうけれど。ちなみにこのタトゥー、今の形成外科の技術をもってすれば消すことが出来ますと、おじいちゃんに伝えておきました。