| 明治女性からの教訓 18.桜のころは |
| ライター 岡田 夏憂 |
| 楽しみにしていたお花見が雨天中止となり、車での見物となりました。春の天気というのはなんて変わりやすいのでしょう。 おばあちゃんたちの体調も、季節の変わり目、特に春は不安定な様子です。微熱が続き、セキが止まらないといった症状を訴えられる方の数がグンと増えます。また、夜、眠れないと睡眠薬を求められる方、そして何より転倒される方が多くなるのがこの時期の特徴かもしれません。冬の間、寒さのためにギュッと緊張していた心や体が、春の日差しの暖かさや、柔らかな空気のためにふわっと緩むのでしょうか。 先日も九十七歳になるおばあちゃんが転倒されました。その日がたまたま土曜日だったこともあり、本人による痛みの訴えが無いため病院には行かず、シップのみの対応となりました。けれど転倒による痛みというのは、その当日よりも次の日から表われてくるものです。「ちょっとだけ痛いのよ」とシップのはり替えを希望されます。「どんなふうに痛いの?」と尋ねても、それほど、痛みがあるようにも見うけられませんでした。いつものように杖を持ち、スタスタ歩いていらっしゃいます。 「百までがんばる」がこの方の口ぐせです。毎朝の血圧測定時も「血圧高いねえ」と言うとこの言葉を返してこられます。また、食事の際も「ごはんとおみそ汁だけじゃだめ。おかずを食べないと」と職員が少々きびしいことを言った時も、「百までいかなあかんから食べる」と言ってお箸(はし)を持たれます。背すじをピンとのばしてイスに座っていたり、消灯時間きっちりまで決して横にならない姿を見ていると明治女の凛とした強さを感じます。痛いということを人に伝えることもイヤだったのかもしれません。 月曜日になり、病院へ行くことになりました。なんとレントゲンには、骨はぼんやりと写るだけで、ひびが入っているのかどうかも判断できない状態だったといいます。骨がカスカスになっていたのです。骨粗しょう症です。全く強い方です。これだけ骨がもろくなった状態で転倒して、骨にひびが入っていないはずはありません。 食事は大事をとって居室に配膳することとなりました。食事を持って部屋をのぞくとどうでしょう。ベッドの上にきちんと正座してお膳が配ばれてくるのを待っているのです。「痛くないの」と聞くと、「やっぱりな、食事の時は正座しないと」と還してきます。食べる様子を見ていると元気そのものです。けれど、やはり、ごはんとおみそ汁しか食べようとしません。なぜ食べないのかを問うと、昔から、もったいなくて、おかずはほとんど食べなかったと言います。ごはんと漬物で充分おなかがいっぱいになるからと。 施設で生活していると、牛乳や、管理栄養士が考えた栄養バランスのとれた食事から、カルシウムをたくさん摂ることができます。けれど、この明治生まれの女性などは、骨格が出来上がる成長期にしっかりとした栄養を摂っていません。また、食生活自体、今のように豊かではなかったと思います。だから、高齢になってから、栄養のバランスを考えた食事をこころがけることは大切かもしれませんが、それよりも若いうちから、このようなことを考えて食事することが必要なのかもしれません。 若いうちからしっかり栄養を摂り、健康な体をつくること。これは、高齢になってからの元気をささえる土台づくりなのかもしれません。桜のころに明治女性から得た、大切な教訓でした。 |