変化する必要なこと

15.冬の当直の夜
ライター 岡田 夏憂  
 冬の当直の夜は、いろいろなことがおこります。なにより鼻血を出す人が多いことには驚かされます。それも血圧の高い人がほとんどです。働きはじめのころは、あまりにもこの出血量が多くてびっくりしたものです。
 看護師によると、これは、暖房により空気が乾燥し、鼻の粘膜が弱っているところに、鼻をほじったりしてそれを傷つけるからだそうです。人の体からは暖房のため、どんどん水分は失われています。ですから、常に水分をとることが大切なのだそうです。
 また、夜中に「ごはん、まだか?」と起きてくる人が増えたりします。それは、寒いからという理由からか、生き物としての本能なのでしょうか。日中、ベッドに入ってずっと何もせず眠る方が多くなるからだと思われます。施設の中は、暖房が入りあたたかいのに不思議です。
 昼、夜逆の生活にならないためにも、日中は、しっかり目を覚まし、活動することが大切です。ただし、お昼寝はかまいません。夜、眠れないというのは、とてもつらいことです。このようなことにならないためにも、メリハリのある規則正しい生活を送ることを入所者には「やかましい」くらい言い続けています。
 それから、寒くなると、夜、尿失禁される方がとても多くなります。原因はやはり「冷え」です。パジャマのズボンはビチョビチョ。ラバーシーツを通りぬけ、マットまで地図を描いてしまって、途方にくれていらっしゃる姿を見るととても心が痛みます。
 それらの方をじっと観察して対策を練りました。夜八時以降はなるべく水分の摂取をひかえてもらう。就寝前にかならずトイレに行ってもらい、リハビリパンツとパットを新しい物にとりかえる。部屋も暖房し、電気毛布もあたたかくしておく。これらのことを習慣づけることで、夜間の尿失禁はピタリとなくなりました。
 このようなことからもわかるように、お年寄りの介護は、その時々で必要なもの不必要なものが変化します。水分は取らなければいけません。けれど状況によっては、おさえなければならないこともあります。介護を受ける方の状態によってもこれは変わっていくものなのです。
 その人にとって、今は何が必要なのかを私達は常に考え、その人に関わるスタッフすべてが同じ方向にむかって進まなければいけません。もちろん私たちは、お医者様でもなければ、看護師でもありませんから、入所者が安心して日常生活が送れるよう、彼らのような専門職の指示にもとづいて介護するだけです。
 けれど、入所者といちばん近い距離で生活しているのは私たちです。入所者の体調の変化も心の揺れも私たち介護福祉士は、敏感に感じなければいけません。
 入所者の生活の中に入りすぎず、離れすぎず、彼らと関わりを持つことの楽しさと難しさを実感しながら、仕事をしています。この仕事についてまもなくのころ「こういう仕事はみんなに愛されようと思ってはダメ。そんな事は不可能だから。気の合う人だけを大切にすればいいのよ」と言った先輩がいました。けれどこれは違うと今になって思います。
 入所者一人ひとりに個性があって、良い面、悪い面が普通にあります。この仕事は、この人たちから愛されようとしてするものではありません。「その人のために自分は何が出来るか」を考えていく仕事なのです。
 冬の日の当直は、いろいろな事が起きて大変だけれど、みなで協力して何かを達成させる喜びは、とても大きくすばらしいものです。