小さな感動を見つけた

13.雪の日に
ライター 岡田 夏憂  
 朝、目を覚ますと辺り一面雪景色で、しばらく窓からじっと外の様子を窺っていました。当直の朝、いつもと違う何かが起るととても驚いて、過剰に喜んだり、悲しんだりすることが多いように思います。
 「おはようございます。起床時間になりました。もうそろそろ起きましょう。本日は一月十七日です。目が覚めたら、カーテンを開けて外の景色を見てください。雪の朝です」と起床の放送を入れました。それから、各居室をまわって、おはようございますのあいさつをしながら、入所者一人一人の体調などをチェックします。
 「雪景色やね、放送聞くまで気付かなかったよ。珍しいね」などと皆が口々に言ってくださいます。皆があまりにもうれしそうに言ってくださるものだから、この日に当直に当たっていた事がとてもラッキーなことのように思えてきました。寒いから、暖かくしてねと皆に声を掛けました。
 朝食のお粥を食べている時、あるおじいさんから、「岡田さん、後で写真撮ろうね」と言って頂きました。どこで写すつもりなのだろうかとわくわくした気持ちで待っていると。「あなたはね、血色もよく、見目麗しい日もあれば、なんだかダメな日もありますね。今日の顔はいけません」と言われてしまいました。
 入所者の皆さんは本当によく、私たち職員のことを見ています。髪形を変えても、新しいトレーナーを着てみても、彼らから、一言二言感想が帰って来るのです。けれど、この方は私のお化粧までチェックしていたのでした。確かに、私は当直明けの朝、お化粧することがありません。「眠くて面倒だから」という理由だけでそうしていたのです。
 「せっかくだから、ベランダで撮りましょうか。岡田さん、あなたは口紅くらいつけたほうがいいですよ」と言われ、言われるまま口紅をつけて、モデルになったのでした。ベランダからの景色は美しく、若草山も薄っすらお化粧をしたように白く見えました。
 窓の外が雪景色でも、施設の中は暖房が行き渡り、いつも快適な温度に保たれています。けれど、皆が雪だ雪だと騒ぐものだから、コートの上ににチャンチャンコを着て部屋から出てきたおばあちゃんがいました。
 「寒いの?」と聞くと「寒くないけど雪やから」となんともお茶目なことをいいながら、恥ずかしくなったのか部屋へ帰って行かれました。特別なことがあった朝は、やはり皆、ソワソワしています。
 小さなことに感動したり、心を動かされたりすることはとても大切なことだと思います。単調な施設での生活の中で、そういったことを一つでも多く感じてもらえるよう、お手伝いすることが私たちの仕事なのだと思います。
 私が勤めている施設では、基本的に外出は自由です。けれど、体調に問題のない方でも土曜、日曜、祝日などは、ご家族などの付き添いなしに外出するのを控えて頂いています。なぜなら、職員が手薄になるこれらの日に外出され、転倒してけがをされた方がいらっしゃるからです。
 こうした決まりごとを取り上げて、自由を奪われた、ここは牢屋と同じだなどとおっしゃる方もいらっしゃいます。けれどどうでしょう、外出は出来なくても、楽しいこと、感動する出来事は施設にいてもたくさん起きているのです。
 小さな感動を見つける力が、毎日を楽しく生きるということにつながっているのだと思います。やわらかく積もる雪を見て、おばあちゃんたちはどんなことを思っているのでしょう。雪の朝の出来事でした。