| 全員で出かけ楽しむ 11.楽しいクリスマス会 |
| ライター 岡田 夏憂 |
| 「お寿司と焼き肉どっちが食べたい?」という質問を施設に入所しているおばあちゃんたちによくします。日常生活で「きょうは良いお天気ですね」と会話するようなものです。コミュニケーションの手段なのです。彼女たちもこの質問には真剣に答えてくれます。それほどお寿司と焼肉には魅力があるのでしょう。 施設ではこの時期、クリスマス会と忘年会を兼ねて外食をします。毎年、どこで食事しようかと職員は頭を悩ませます。まず、何を食べるか。そして、送迎のバスはあるのか。トイレは、お年寄りが使いやすい様式なのか。階段を使わずに移動できるのか。もちろん値段は妥当かどうか。これらの条件を頭に入れて、毎年同じにならないようにお店を決めるのは、むずかしいことです。 今回は、とにかくおばあちゃんたちの食べたい物を一遍に出してくれるお店ということで決めました。メニューは、ハンバーグ、お寿司、お造り、茶碗蒸し、サラダ、ワカメのお吸い物、フルーツでした。 体調が悪くなってはいけないので、アルコールは出しませんでした。それにしてもすごい量です。これで、お寿司派の人もお肉派の人もどちらも満足してもらえるでしょう。そんな期待通り、なごやかに食事会の時間は流れました。 八十八歳、体重二十八ァのおばあちゃんは、私の手のひらよりも大きなハンバーグをペロリと食べていました。歯が無いのに必死に食べ物を口に運ぶ様子はいじらしくもありました。 食事もそろそろ終わろうかという頃にカラオケ大会がはじまりました。これも毎年恒例となっています。施設よりもこちらの方がたくさん曲目があるからと熱心に選曲する人がいたり、氷川きよしさんの曲を取り合う人たちがいたりとすっかり宴会も盛り上がってきました。 するとどうでしょう。おばあちゃんが二人ツツッと前へ出てきたと思ったらチークダンスをはじめてしまったのです。すっかり乗せられてもう一組も踊り出しました。すばらしいことです。きっと人はおいしい物を食べ、歌うと踊りたくなるのでしょう。こういうことが遠慮なく出来るというのは素敵なことです。 カラオケが終るとサンタクロースに扮した職員がプレゼントを渡します。中身はすべて百円ショップで買ってきたものですが、何が当たるかわからないので、自分のクリスマスカードに書かれた番号が呼ばれるのを真剣な表情で、待っています。 値段は全て同じでも物の値打ちというのは、その人の価値観によって変わるのだなあといつもこの時、痛感させられます。気に入らない物が当たると捨てて帰る人がいるほど、この抽選会は白熱します。この様子からも毎年このプレゼントを入所者が楽しみにしていることがわかります。 この食事会は、少々足が不自由でも、体調があまりすぐれなくても、基本的に全員が参加します。遠足やその他の行事と違う点はそこにあります。ですから、体の不自由な方にしてみれば、唯一の外出する機会となるわけです。 どんなに無理をしても全員で外へ出かけ、楽しい時を過す。そして一年を振り返る。「来年も良い年にしたい、また来たいね」と感想を言ってくれただけで、職員一同もほっと胸をなでおろしました。 高齢の方が集い食事を楽しむという行為自体、何か奥深い物があるような気がします。そこには、我々と違って、つねに死と近い距離にあり、次回が迎えられるかわからないという不安があるからなのでしょう。 どうそ来年も全員そろって、この楽しい時が迎えられますように。そんな祈るような気持ちで、食事会をお開きにしたのでした。 |