| 施設での生活楽しむ 10.あたたかな冬支度 |
| ライター 岡田 夏憂 |
| 十二月だというのにそれほど寒くないので、施設の居室にも暖房を入れている方はほとんどいらっしゃいません。また、インフルエンザの予防注射がきいているのでしょうか。風邪をひいているという訴えはほとんど聞かれません。暖かい冬というのはお年寄りにとって喜ばしいことなのかもしれません。 施設のおばあちゃんたちはとても寒がりなので、冬になると毎年、びっくりするような服装をして居室から出てきたりします。彼女たちが「ヒッパリ」と呼ぶカッポー着の厚手のものの下にセーターを二枚着ているなどはあたりまえです。入浴介助で、着脱の見守りをしている時など、この方はいったい何枚洋服を着ているのだろう。重くはないのかしらと首をかしげたくなるほど、重ね着をしていらっしゃいます。 洋服の下にパジャマを着ていたり紙パンツを二枚、三枚とはいていらっしゃることもあります。こんなにたくさんの衣類を身につけていながらも、体操したり、身軽に動き回っていらっしゃることが不思議でなりません。 こんなに着ていたら動くのがつらいでしょうと、あるおばあちゃんに居室で一枚ずつ服を脱いでいただいていると、いつもボソボソと自慢話がはじまります。「これはデパートで買って高かったのよ」などと言いながらも「昔物(むかしもの)だけどね」と、そのセーターの色をほめるとはずかしそうにおっしゃいます。 毎年彼女たちの冬支度を見ていて驚くことはとても衣類を大切に保管していらっしゃるということ。そして、それらを大切に扱い、着ていらっしゃること。まるで冬が来る度、その服を着ることを楽しんでいるかのようです。なかには、自分で編んだカーディガンやセーターを誇らし気に着ている方もいらっしゃいます。 定員が五十人の小さなコミュニティーでも流行というものがあります。秋には前にボタンのついたチョッキが流行しました。最近は、ヒッパリを皆が着始めています。自分でお店に行き、買ってくる方もいますが、洋服屋さんが販売に来た時、たくさんの色や模様の中から自分に合ったものを買われる方もいます。他の人と同じにならない様に品定めする目は真剣そのものでした。もう少し寒くなれば、皆が申し合わせたようにヒッパリを着ることでしょう。 けれど、この季節、職員はあまりにも多くの衣類の洗濯に頭を悩ませます。もちろん、洗濯介助を必要とされる方の分のみ洗濯します。山のような洗濯物は、入所者に手伝っていただいて畳みます。すっかりこれは冬の風物詩となり、施設があたたかな生活の空間なのだと実感します。だから、私はこの光景がたまらなく好きでした。 ある日、この光景を見た事務職員がこんなことを言いました。「この人たちはお金を払って入所しているのだから、こき使わないで下さい」。お金とは入所にかかわる措置費のことです。この考えはどうしたものでしょう。施設に入所していても身のまわりのことを出来る限り自分でやることはあたりまえであって、それは施設での生活を楽しむことにつながると思います。 施設に入所していても、ちょっとした季節の変化を感じて欲しいし、そのような環境づくりは大切なのではないでしょうか。彼女たちの冬支度をお手伝いしながらふと、考えました。 |